ちゃーぴーのフットボール日記

トッテナムホットスパー(通称スパーズ)に関する話題を中心に記事を掲載します(仮)

スパーズの未来を担うライアン・メイソンの次なるステップ

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(2019年7月にアカデミーコーチに就任した当時のライアン・メイソン)

 

ポチェッティーノがスパーズに就任した2014/15シーズン、度重なるローンを経験したアカデミー出身の当時23歳の青年は大一番であるエミレーツでのノースロンドンダービーで見事スターティングメンバー入りを果たした。

 

彼はスパーズのアカデミー育ちで、ファーストチームデビューは2008年のUEFAカップである。この試合の約6年前にファーストチームデビューして以来、5つのクラブをローンで転々としていたのである。

 

苦労人だった彼は、キャピタルワンカップノッティンガムフォレスト戦で勝敗を左右するゴールを挙げ、続くアウェイでのノースロンドンダービー戦でスタメン入りも果たした。それ以降もコンスタントに試合に出続け、結果的にシーズン31試合の出場を記録し、イングランド代表にも選出されたのである。6年もの間複数のクラブを転々としていた彼にとって、このシーズンはまさに転機と呼べるものだっただろう。

 

その次のシーズンは出場機会が減り、2016年にはハルシティへと移籍することにはなったが、スパーズで培った中盤からの迫力あるインナーラップやインテンシティの高さは未だ彼の武器だったはずである。スパーズファンの誰もがハルシティでの成功を期待していたことだろう。しかし、悲劇は訪れた。このニュースはスパーズファンのみならずサッカーファンなら一度は耳にしたことがあるはずである。

 

筆者である私はアカデミー育ちかつ闘争心溢れる選手を好む。だからこそ、現在8番を背負っているハリー・ウィンクスや当時8番を背負っていたライアン・メイソンに肩入れしてしまっている。そのため、彼のフットボーラー人生が幕を閉じたときには酷く心を痛めた。彼の新たなるステージでの成功を願い、38番のユニフォームとハルシティでの8番のユニフォームを1年間部屋に飾っていたほどである。

 

そんな彼も今や28歳、現在スパーズのアカデミーコーチに在籍しており、新たなるキャリアを積み上げている最中である。

 

そして数日前、彼にとっても重要なイベントであるUEFAチャンピオンズリーグのグループステージ(GS)組み合わせ抽選会が行われた。というのも、彼が担当するスパーズユースはユース版チャンピオンズリーグに出場し、そのユース版チャンピオンズリーグのGS組み合わせはファーストチームの組み合わせが反映されたものであるからである。つまり、彼が指揮するスパーズユースもバイエルンオリンピアコスレッドスターと戦うことになるということである。

 

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(スパーズ公式メール添付の写真を引用)

 

先日スパーズ公式がライアンのインタビュー記事を掲載した。ユースチームにおいて自らが果たすべき役割、それをSpurs TVで隠すことなく語った。以下、発言内容を紹介する。

 

「昨シーズンのチャンピオンズリーグでは皆にとって刺激的なグループに入ったよね。もちろん、今年の抽選会も注視しているよ。」

「僕はスパーズファンだからね、ファーストチームが願わくばエキサイティングなグループに入ることを望むよ。ベストな状態の世界最高峰と戦う、それがチャンピオンズリーグというものさ。」

 

「僕たちのチームにとってUEFAユースリーグの経験は計り知れないほど重要なんだ。僕がユースチームの選手として海外に飛んで、他のリーグの強豪と戦った頃を思い出すね。欧州の大会で学ぶ経験はいずれも素晴らしくて、このような経験を再びできることは本当に好ましい限りだよ。去年僕らはバルセロナインテルの19歳以下のチーム(U19)と対戦して、スペインやイタリアで活躍するこの年代の力量を存分に肌で感じた。ユース世代の選手にとってこのような経験は本当に貴重で、願わくば彼ら自身がその重要性を理解してくれることを望むよ。この経験が選手達をさらに成長させるだろう。」

 

「昨シーズンのUEFAユースリーグは山あり谷ありだったね。グループステージ最初の3試合は連続してドローの結果に終わったけれど、12月6日の最終節でバルセロナ相手に2-0の勝利を挙げてプレイオフに進出したんだ。そしてそのプレイオフではPAOK相手に1-0の勝利を挙げて、見事決勝トーナメントに進出できた。残念ながらベスト16でポルトに0-2の敗北を喫して、そのシーズンのユースリーグは幕を閉じたわけだけどね。」

 

「これからも僕は選手たちを支えるし、チーム全体を支えるよ。今年も刺激的な一年になりそうだ。」

「今年のスパーズユースは言うまでもなく去年とは異なるチームになっているけれど、このチームのコアの部分は去年と同様変わっていないと思う。スパーズユース1年目の選手たちを含め競争はあると思うし、多少なりとも去年とは違うチームにはなると思うけど、このクラブには才能豊かな選手が何人もいるし不安はないよ。僕らは昨シーズン自分たちの力を証明できたし、今後成功を収めることになるだろう。そして、彼らはエキサイティングな試合をし、生涯忘れられない経験を積むことになるだろうね。」

 

「ノルマが課せられたね!」(笑顔を見せながら)「僕は自らが率いるチームの多くを見てきた。ちなみに未だにコーチングに関する指導を受けているんだ。僕は様々なアングルから試合を観察していて、短期間ではあるけれど急激に成長したように感じている。学び続けて新しいことに挑戦することで、常に成長し続けているんだ。僕がコーチングを学ぶのに適した場所はトッテナム以外考えらないよ。いつも言っていることだけど、僕はフットボールの試合が大好きなんだ。これは周知の事実かもしれないけれど、僕が選手を引退してコーチングに携わるようになったことからも明らかだよね。フットボールから身を遠ざけるのは簡単なことさ。実際のところ、苦しい期間を過ごしたし、それに関して僕は一切嘘をつかないよ。辛い時期だったよ。でも、僕はフットボールが大好きなんだ。選手時代とはまた違ったフットボールに対する想いがあるんだ。今はコーチとしてユースの選手たちが成長する手助けをすることができるし、彼らが成長するのを見るととても良い気分になるんだ。」

 

「僕はヨーロッパのコンペティションにおいてチームを率いる責任が与えられて、それは素晴らしいことだね。でも、僕に与えられているのはユースの選手たちの実力を伸ばして成長させ、ファーストチームに送り出すことだ。もしくはそうならないならば、他のチームに移籍することになるね。」

 

「僕たちはチームがトッテナム流の戦い方をすることを望んでいるよ。僕が思うに、このクラブは自分たちのアイデンティティとして、プレイの仕方やファーストチームにおいて求められることが明確に決まっていて、それを若いユース世代に伝えていこうとしているんだ。同時に選手個人の特徴も見られていて、彼らが困難にぶつかったとき、またはプレッシャー下で、どのような決断をするかを試されているんだ。言わずもがな、僕は戦術的な観点で試合を観察していて、選手たちが戦術を学ぶ手助けをしようとしている。でもそれだけではなくて、ピッチ上で困難に晒されたときにどのような特徴を発揮するかも見ているんだ。彼らがそのような状況に陥ったときに学ぶことはあるし、何よりそのような経験が選手にとって掛け替えのないものなんだ。」

 

「僕たちはUEFAユースリーグでビッグゲーム含むより多くの試合を経験したいし、その試合において素晴らしい瞬間を体験したい。選手の多くはファーストチームでの経験がなく、自分の能力を示したり、同年代のトッププレイヤーと競う素晴らしい経験になるだろう。だからこそ皆楽しみにしているんだ。試合に勝利することは大事だけれど、同時にアカデミーにおける僕らの勝利は、ファーストチームに上がることなんだ。長期的な視点に立って、その事実を忘れてはいけないね。」

 

 

運命の悪戯で歩むことになったセカンドキャリアにおいて、彼は実直にフットボールと向き合い、スパーズの未来について想いを馳せる。彼の貪欲なまでにフットボールを追いかける姿、そしてスパーズを愛する気持ちは一ファンである私の気持ちを揺れ動かす。

 

いつの日か彼がファーストチームを指揮し、スパーズをタイトル獲得に導く未来が訪れることを強く信じている。そして、その未来へと続く第一ステップが今シーズンのUEFAユースリーグだと筆者は思っている。アカデミーコーチとしてピッチサイドで躍動する彼の挑戦を、この目にしっかりと焼き付けておきたい。

 

 

チャンピオンズリーグGS組み合わせ抽選会に向けての予備知識

 

毎年恒例のあの行事がやってくる。年明けのくじ引きには興味ないが、この夏の一大イベントであるUEFA主催のくじ引きには関心を持っている人も少なからずいることだろう。

 

チャンピオンズリーグのグループステージ(GS)組み合わせ抽選会が本日25時(日を跨いで明日早朝1時)に開催される。

 

この行事に際して、UEFAがGS組み合わせ抽選会を観るに当たって知っておくべきことをホームページ上で公開した。(https://www.uefa.com/uefachampionsleague/news/newsid=2618778.html)

 

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そこで、備忘録として本ブログにまとめておくことにする。まずは参加チームを国別にまとめたものを見てみる。スペイン、イングランド、イタリア、ドイツからは4チームが出場し、フランスからは3チーム、ロシアとベルギーからは2チーム、他1チームずつが本戦に出場することになっている。

 

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そしてポット分けはこちらである。同国や同じポットが理由でスパーズと同じグループには入らないチームには斜線を引いている。ここ最近CLで合間見えることが多かったドルトムントや昨シーズンのCLで激闘を演じたアヤックスとは別ポットになることが確定している。また、昨シーズン終了直後まで同僚だったトリッピアとの再会も、グループステージではお預けとなることが決まっている。

 

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ちなみに各クラブの隣に記載されている数字はそのクラブの成績等により与えられたポイントの合計で、具体的には①クラブの過去5シーズンでのCL・ELの成績(ポイント)と、②クラブが所属するリーグの同シーズンにおけるカントリーポイントを加味した数値となっている。

 

次に組み合わせ抽選会のプロセス等について見ていくことにする。先日行われたチャンピオンズリーグレイオフの結果により、ストレートインしたチームに加えて、ディナモ・ザクレブ、スラヴィア・プラハアヤックスツルヴェナ・ズヴェズダクラブ・ブルージュオリンピアコスの6チームが本戦に出場することになった。

 

そしてポット分けは前述の通りだが、ポット1にはCL・ELの優勝チーム、その他カントリーランキング上位6カ国のリーグの優勝チームが入ることになっている。そして、ポット2以下は各クラブのポイント数に応じて順位付け、ポイントが高いクラブからポット2、3、4と配分される。

 

また、例年通りグループステージでの同国対決は認められない。ちなみにロシアとウクライナのクラブも同グループに入ることはない。

 

加えて、同国から2チーム以上出場する場合には、火曜開催の試合と水曜開催の試合に振り分ける措置をとる。具体的には、グループAないしD(A〜D)を一つの枠組みとして、グループEないしH(E〜H)をもう一つの枠組みとして、2つの枠組みを作る。そして、同国から2チーム出場する場合にはそれぞれ別の枠組みに入れる。3チーム出場する場合には、2チームを一つのペアとしてどちらかの枠組みに入れ、残り1チームは別の枠組みに入れる。4チーム出場する場合は、2チームごとのペアをつくり、それぞれ別の枠組みに入れる。より具体的に示すと以下の写真の通りである。(ペアはあくまで仮のものである。)

 

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以上がチャンピオンズリーググループステージの組み合わせ抽選の概要である。そして、チャンピオンズリーグの試合日程はこちらである。

 

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最後に本ブログに掲載した写真および情報は概ねUEFAのページから拝借したものなので(下から2枚目のノートを除く)、ブログに目を通した方も元記事を読んでみることをお勧めします。それではあと約一時間後の組み合わせ抽選会を楽しみにお酒を用意しましょう。(未成年は酒以外でお願いします。)(https://www.uefa.com/uefachampionsleague/news/newsid=2618778.html)

 

【追記】

先程組み合わせ抽選が終了し、スパーズはバイエルンオリンピアコスレッドスターと同じグループBに入りました。

 

Twitterでも話しましたが、スパーズの傾向として格上のチーム相手だと実力以上の力が発揮できますが、互角以下のチームには覇気がなく、途端にパフォーマンスを落としがちです。加えて、最近のスパーズはラインを深く設定されて圧縮された途端に攻め手を欠く。(この点についてはスパーズジャパンの方にコラムの形で記事を載せているので気になる方は読んでみてください。)私個人の意見としては、思いのほかバイエルン以外の2チームに苦戦しそうだと思っています。

 

ただ、どんなに苦戦しようがサポーターとして応援することに変わりはありません。今年もロンドン一、いや世界一のクラブであるスパーズを応援しています。

 

 

 

 

 

 

 

IFABが示すルール改正の要点

プレミアリーグ第2節、スパーズ対マンチェスター・シティの試合では終始シティがスパーズを圧倒するも、2-2のドローで試合終盤へと差し掛かった。そして迎えたアディショナルタイム、デ・ブライネがコーナーキックで蹴ったボールは鋭い弾道で両チームの選手の間を抜け、ガブリエル・ジェズスの足元に溢れた。彼はそのボールを冷静にゴールに沈め、エティハド・スタジアムは歓喜の渦に飲み込まれた。アディショナルタイムは4分のうち残り2分足らずで、シティの選手やコーチ、サポーターも勝利を確信したに違いない。

しかし、その後間も無くして、エティハド・スタジアムには"VAR my lord"のチャントが鳴り響くことになる。

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(上記写真はTwitter公式@SpursOfficialが投稿したものを使用)

 

思えば、最近のスパーズは常々VARと縁がある。昨シーズンのチャンピオンズリーグクォーターファイナル、シティとの1stレグや2ndレグに加えて、ファイナルでのリバプール戦でも試合結果を左右するVARシステムの運用がなされきた。

 

サポーターからすると、VARシステムが優位に働けばそれを賞賛し、不利に働けばそれを批判したくなるものである。しかし、従来の"人"による判定には限界があり、それは過去のフットボールの歴史を見れば明らかである。最新技術を導入し、並行して現時点で運用されているルールを見直すことでヒューマンエラーを最小限に抑える、それこそがフットボール界が今まさに取り組んでいることであり、多少の不満があったとしてもVARシステムの運用については長い目で見ていく必要があるだろう。

 

先日、IFAB(International Football Association Board)は2019/20シーズンのルール改正について要点をまとめた説明文を公表した。(static-3eb8.kxcdn.com/documents/822/164203_210819_Circular_17_LoG_Laws_clarification_2019_20_EN.pdf)

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(写真上部のPDF参考)

 

これら変更点は、選手の交代手続・ドロップボール・攻撃側にレッドカードまたはイエローカードを提示する必要条件・ペナルティキック・VARに関するものである。それでは以下、上記説明文をそれぞれ紹介していく。

 

(1) Law 3 – 選手交代手続における変更点

選手交代に際して、ピッチ上の選手はタッチライン上の最も近い場所を経由してピッチ外に出ることが求められる。原則として上記規則は遵守されるが、例外としては①明確に選手の安全性を考慮した場合や②レフェリーがハーフウェイラインから早急に出ることを認めた場合が挙げられる。早急にピッチ外にでない場合には、罰則規定としてイエローカードが提示されることになる。

 

(2)Law 8 – ドロップボールによる試合再開

ドロップボールが採用されるのは、ボールがレフェリーもしくは他の審判員に当たったにもかかわらず"インプレー(ボールがピッチ内に残っている場合)"であったときに限る。ボールがアウトオブプレー、すなわちピッチ外に出た場合には、審判員がボールに触れていなかった場合と同様の扱いでゲームが再開される。

 

(3)Law 10 – 試合結果の決定

2019年6月、女子ワールドカップならびにコパアメリカでVARが使用された。それらの大会では、ペナルティマークからのキック(PK戦でのペナルティキック)の際にキーパーが反則を犯してやり直しが行われた場合に、キーパーに対してイエローカードは提示しない決まりになっていた。

この運用については現在VARを使用する他の大会やリーグでも採用されているが、あくまでもペナルティマークからのキックの場合に限ってのことである。つまり、90分+延長戦で決着がつかなかった場合に行われるPK戦を除く、反則により得られるペナルティキックにはこのルールは適用しない。しかしながら、もしゴールキーパーペナルティキックからのキック(PK戦でのペナルティキック)中に繰り返し反則を犯した場合には、レフェリーは繰り返しの反則行為または反スポーツマンシップの行為に対してイエローカードを提示することになる。

 

(4) Law 12 − ファウルと不正行為

レフェリーは、Law12に記載された反則行為を犯したチーム役員に対して、イエローまたはレッドカードを提示することが求められている。とりわけ注目すべきは、チーム役員が審判員に詰め寄るためにプレー中のピッチに侵入した場合、レフェリーはレッドカードを提示することが求められており、この規則はハーフタイムや試合終了時点についても適応される。

 

(5) Law 14 − ペナルティキック

ペナルティキックの手続きにおける主な変更点の一つは、ゴールキーパーが両足をゴールライン上に置く必要がなくなることで、キーパーの動作の自由度が非常に高まった。また、足はタッチラインに物理的に触れる必要はなく、そのラインの上部に足があればよい。

ボールがインプレーになる前にキーパーがキッカーに干渉しペナルティキックをセーブした場合、キックはやり直しとなる。

しかし、もしキックがゴールから逸れた場合、または、ゴールポストクロスバーに当たった場合には、レフェリーはルールの趣旨に鑑み、キーパーの干渉が明確にキッカーに影響を与えた場合に限りキックのやり直しを決定することになる。

ちなみにVARを採用した試合では、ゴールキーパーならびにキッカーによる反則をVARでチェックすることが義務付けられている。

 

(6) VARの手順

VARを使用する場合は"明確に明白な誤り"であることが必要で、"審判団が見過ごしてしまった重大な事象"に対して採用される。具体的には、ゴールか否か、ペナルティか否か、一発レッドに値する行為か否か、人違いでイエローまたはレッドカードを提示してしまった可能性がある場合にVARが使用される。

"明確に明白な誤り"でなければ従来通りピッチ上の判断が採用され、明白な誤りでなければピッチ上での判断が覆されることはない。

また、事実確認で足りる判断(具体的にはオフェンス側の位置、オフサイドの判断にかかる選手のポジション、PK(PK戦でのものと流れでのPK双方含む)でのゴールキーパーによる反則、ボールがピッチ外に出たか否かなどの場合)に際して、VARは明確なリプレイの証拠があるかどうかをレフェリーに伝えなければならない。

もしも、リプレイの証拠がカメラアングルやカメラポジション、ボールの軌道を判断するのが困難な場合等明確に判断できない場合には、VARは試合に干渉し得ない。

VARを採用するに際して、レフェリー自身がピッチ上での判断が"明確に明白な誤り"でない事象を再確認することは許されない。ビデオでの再確認は審判が目の前で生じた事象を確認するセカンドチャンスとして認められているわけではなく、明らかな誤りを下したことを確認し直すものではないのである。

 

以上がIFABが先日公表した説明文の内容だが、その数週間前に上記変更点以外に"ゴールキックに関する通達も出している。(https://theifab.com/news/clarification-law-16-the-goal-kick)

 

今シーズンからゴールキックに関するルールは大幅な変更があり、ゴールキックの際にボールが蹴られた時点で即座にインプレーとみなされ、ボールがペナルティエリアから出る前に競技者がボールを扱うことも可能となった。ただ、それによりいくつかの質問が殺到したため、IFABが今回通達を出すことになったというのが事の経緯である。

 

ちなみにこの解説文に関してはJFAが個別に翻訳文を掲載していたため、気になった方はこちらを参考にしてください。(決して手抜きではありません。記事作成中に見つけたから誘惑に負けたとかそういうわけではありません。決して!)(https://www.jfa.jp/laws/ の"2019/20競技規則の改正について"(網掛け部分)を参照)

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以上がIFABが今回説明を加えたルール改正に関する通達だが、このように規則を運用する側も新ルールの周知徹底を図ることに積極的である。冒頭で話題に挙げたスパーズ対シティの試合でもそうだが、VARに関しては不利な判定を受けたサポーターの不満は高まるばかりだ。しかし、審判による判定において歴史的に明らかな判定ミスを見逃してきたことは否定しようのない事実である。

ルールに関しては繰り返し手直しを加え、最新技術を導入しつつ出来る限り判定におけるエラーを減らす、このような長期的な取り組みがフットボールを更なる高みに導くことを期待している。

 

 

 

 

 

 

 

Yワード使用の是非について

"Yiddo, Yiddo"、ホワイトハートレーンに鳴り響くそのチャントをスパーズファンであれば一度は耳にしたことがあるだろう。

プレミアリーグ開幕戦では、今年6月に亡くなったスパーズのレジェンド、ジャスティン・エディンバラに対して、スタジアムに訪れたスパーズファン一同が追悼の意を込めてYiddo(またはYid、以下Yiddoで統一する)チャントを高らかに歌い上げた。

スパーズの代表的なチャントとして知られるそのチャントは、エティハドでのマンチェスターシティ戦でもスタジアムに鳴り響き、選手たちを鼓舞する役割を果たしたことだろう。

 

そのYiddoチャントについて、クラブがスパーズファンに調査アンケートを実施したのはつい先日のことである。(https://www.surveymonkey.co.uk/r/Y-word_Consultation)アンケートページのタイトルは"Y-word Consultation"、Yワードに関してのご相談である。つまり、Yiddoチャントの使用に関して、ファンがいかなる考えを持っているかを調査したい狙いである*。

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冒頭の質問はメンバーシップ加入の有無、ホームおよびアウェイでの試合観戦の頻度、試合観戦の際に利用するスタンドの位置等で、まずは質問者の属性を明らかにすることを主眼とした。

そして続くは本題のYワードに関する意見に関しての質問である。質問は複数あり、各チャーリティー団体や国内メディアの意見・コラムを紹介し、それに対する賛成反対をマークするといった方式である。反セム主義から英国のユダヤ人を保護する団体であるコミュニティセキュリティトラスト(CST)や、TimesやDaily Mailの記者、Jewish Chronicle紙、SNSでのスパーズサポーターの意見まで紹介し、スパーズサポーターにこの件について深く考えてもらうことを目指しているように思える。

では、そのいくつかを紹介したいと思う。

 

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一つ目はCSTの記者によるコメントである。

"他クラブのファンから反セム主義的扱いを受けたとしても、それはYワードを使用する言い訳や正当な理由にはなり得ない。反セミ主義を撲滅するにはスパーズファンが自分たちのアイデンティティを表現する他の方法を見つけなければならないね。"(上記写真参照)

 

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次にTimesの記者のコメント抜粋である。

"スパーズファンの間ではYidを愛情表現や反セム主義への対抗言論の一つとして捉えている節がある。しかし、他者から見てその発言がネガティブなものと捉えられるものならば、他のクラブもそのようにネガティブなものとして扱うだろう。私には親愛なるスパーズファンの友人が数多くいるが、それはさておき、率直に言って世間知らずと言っても過言ではないだろう。(上記写真参照)

 

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最後にSNSでスパーズファンが投稿した意見を紹介する。

"私はスパーズファンで、かつてはYidのプリントが入ったシャツを持っていたし、Yid Armyを歌っていたさ。今までは問題視すらしていなかったんだ。でも、軽蔑の意を含む単語として使われていたり、誰かを傷つけたり狼狽させる可能性があることを学んだのさ。これからは使わないようにするよ。"(上記写真参照)

 

ここまでYワードに関するいくつかの意見を紹介してきたが、質問の材料となる文章は比較的Yワードに批判的な文章が多く並ぶ。過去にYワードの使用でスパーズサポーター3名が逮捕された事件もあり**、この件についてはクラブとサポーター双方ともに大きく関わる問題である。Yワードについては未だ多くのスパーズサポーターが使用しており、このような批判的な意見にも目を通した上で自分なりの意見を持って欲しい。

 

※ YワードとはYiddoを総称した呼び方で、Yiddoはユダヤ人が同胞を呼称する際に用いた用語である。ライバルチームのサポーターがスパーズサポーターを挑発する目的で、いつしか差別的な意味を込めた使用をするようになったことで問題視されるようになった。それに対して、スパーズファンはそのような挑発を逆手にとり、自らを"Yiddo"と呼ぶようになった。ちなみに、Yiddoを自称するサポーターにはユダヤ人ではない者も多く存在していると思われ、単にスパーズサポーターという意で用いている人も一定数いると思われる。

 

※※ 当時のガーディアンの記事はこちらで確認できます。(https://www.google.com/amp/s/amp.theguardian.com/football/2014/mar/07/tottenham-hotspur-football-fans-chant-yid-charges-dropped-cps-court)