ちゃーぴーのフットボール日記

トッテナムホットスパー(通称スパーズ)に関する話題を中心に記事を掲載します(仮)

IFABが示すルール改正の要点

プレミアリーグ第2節、スパーズ対マンチェスター・シティの試合では終始シティがスパーズを圧倒するも、2-2のドローで試合終盤へと差し掛かった。そして迎えたアディショナルタイム、デ・ブライネがコーナーキックで蹴ったボールは鋭い弾道で両チームの選手の間を抜け、ガブリエル・ジェズスの足元に溢れた。彼はそのボールを冷静にゴールに沈め、エティハド・スタジアムは歓喜の渦に飲み込まれた。アディショナルタイムは4分のうち残り2分足らずで、シティの選手やコーチ、サポーターも勝利を確信したに違いない。

しかし、その後間も無くして、エティハド・スタジアムには"VAR my lord"のチャントが鳴り響くことになる。

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(上記写真はTwitter公式@SpursOfficialが投稿したものを使用)

 

思えば、最近のスパーズは常々VARと縁がある。昨シーズンのチャンピオンズリーグクォーターファイナル、シティとの1stレグや2ndレグに加えて、ファイナルでのリバプール戦でも試合結果を左右するVARシステムの運用がなされきた。

 

サポーターからすると、VARシステムが優位に働けばそれを賞賛し、不利に働けばそれを批判したくなるものである。しかし、従来の"人"による判定には限界があり、それは過去のフットボールの歴史を見れば明らかである。最新技術を導入し、並行して現時点で運用されているルールを見直すことでヒューマンエラーを最小限に抑える、それこそがフットボール界が今まさに取り組んでいることであり、多少の不満があったとしてもVARシステムの運用については長い目で見ていく必要があるだろう。

 

先日、IFAB(International Football Association Board)は2019/20シーズンのルール改正について要点をまとめた説明文を公表した。(static-3eb8.kxcdn.com/documents/822/164203_210819_Circular_17_LoG_Laws_clarification_2019_20_EN.pdf)

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(写真上部のPDF参考)

 

これら変更点は、選手の交代手続・ドロップボール・攻撃側にレッドカードまたはイエローカードを提示する必要条件・ペナルティキック・VARに関するものである。それでは以下、上記説明文をそれぞれ紹介していく。

 

(1) Law 3 – 選手交代手続における変更点

選手交代に際して、ピッチ上の選手はタッチライン上の最も近い場所を経由してピッチ外に出ることが求められる。原則として上記規則は遵守されるが、例外としては①明確に選手の安全性を考慮した場合や②レフェリーがハーフウェイラインから早急に出ることを認めた場合が挙げられる。早急にピッチ外にでない場合には、罰則規定としてイエローカードが提示されることになる。

 

(2)Law 8 – ドロップボールによる試合再開

ドロップボールが採用されるのは、ボールがレフェリーもしくは他の審判員に当たったにもかかわらず"インプレー(ボールがピッチ内に残っている場合)"であったときに限る。ボールがアウトオブプレー、すなわちピッチ外に出た場合には、審判員がボールに触れていなかった場合と同様の扱いでゲームが再開される。

 

(3)Law 10 – 試合結果の決定

2019年6月、女子ワールドカップならびにコパアメリカでVARが使用された。それらの大会では、ペナルティマークからのキック(PK戦でのペナルティキック)の際にキーパーが反則を犯してやり直しが行われた場合に、キーパーに対してイエローカードは提示しない決まりになっていた。

この運用については現在VARを使用する他の大会やリーグでも採用されているが、あくまでもペナルティマークからのキックの場合に限ってのことである。つまり、90分+延長戦で決着がつかなかった場合に行われるPK戦を除く、反則により得られるペナルティキックにはこのルールは適用しない。しかしながら、もしゴールキーパーペナルティキックからのキック(PK戦でのペナルティキック)中に繰り返し反則を犯した場合には、レフェリーは繰り返しの反則行為または反スポーツマンシップの行為に対してイエローカードを提示することになる。

 

(4) Law 12 − ファウルと不正行為

レフェリーは、Law12に記載された反則行為を犯したチーム役員に対して、イエローまたはレッドカードを提示することが求められている。とりわけ注目すべきは、チーム役員が審判員に詰め寄るためにプレー中のピッチに侵入した場合、レフェリーはレッドカードを提示することが求められており、この規則はハーフタイムや試合終了時点についても適応される。

 

(5) Law 14 − ペナルティキック

ペナルティキックの手続きにおける主な変更点の一つは、ゴールキーパーが両足をゴールライン上に置く必要がなくなることで、キーパーの動作の自由度が非常に高まった。また、足はタッチラインに物理的に触れる必要はなく、そのラインの上部に足があればよい。

ボールがインプレーになる前にキーパーがキッカーに干渉しペナルティキックをセーブした場合、キックはやり直しとなる。

しかし、もしキックがゴールから逸れた場合、または、ゴールポストクロスバーに当たった場合には、レフェリーはルールの趣旨に鑑み、キーパーの干渉が明確にキッカーに影響を与えた場合に限りキックのやり直しを決定することになる。

ちなみにVARを採用した試合では、ゴールキーパーならびにキッカーによる反則をVARでチェックすることが義務付けられている。

 

(6) VARの手順

VARを使用する場合は"明確に明白な誤り"であることが必要で、"審判団が見過ごしてしまった重大な事象"に対して採用される。具体的には、ゴールか否か、ペナルティか否か、一発レッドに値する行為か否か、人違いでイエローまたはレッドカードを提示してしまった可能性がある場合にVARが使用される。

"明確に明白な誤り"でなければ従来通りピッチ上の判断が採用され、明白な誤りでなければピッチ上での判断が覆されることはない。

また、事実確認で足りる判断(具体的にはオフェンス側の位置、オフサイドの判断にかかる選手のポジション、PK(PK戦でのものと流れでのPK双方含む)でのゴールキーパーによる反則、ボールがピッチ外に出たか否かなどの場合)に際して、VARは明確なリプレイの証拠があるかどうかをレフェリーに伝えなければならない。

もしも、リプレイの証拠がカメラアングルやカメラポジション、ボールの軌道を判断するのが困難な場合等明確に判断できない場合には、VARは試合に干渉し得ない。

VARを採用するに際して、レフェリー自身がピッチ上での判断が"明確に明白な誤り"でない事象を再確認することは許されない。ビデオでの再確認は審判が目の前で生じた事象を確認するセカンドチャンスとして認められているわけではなく、明らかな誤りを下したことを確認し直すものではないのである。

 

以上がIFABが先日公表した説明文の内容だが、その数週間前に上記変更点以外に"ゴールキックに関する通達も出している。(https://theifab.com/news/clarification-law-16-the-goal-kick)

 

今シーズンからゴールキックに関するルールは大幅な変更があり、ゴールキックの際にボールが蹴られた時点で即座にインプレーとみなされ、ボールがペナルティエリアから出る前に競技者がボールを扱うことも可能となった。ただ、それによりいくつかの質問が殺到したため、IFABが今回通達を出すことになったというのが事の経緯である。

 

ちなみにこの解説文に関してはJFAが個別に翻訳文を掲載していたため、気になった方はこちらを参考にしてください。(決して手抜きではありません。記事作成中に見つけたから誘惑に負けたとかそういうわけではありません。決して!)(https://www.jfa.jp/laws/ の"2019/20競技規則の改正について"(網掛け部分)を参照)

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以上がIFABが今回説明を加えたルール改正に関する通達だが、このように規則を運用する側も新ルールの周知徹底を図ることに積極的である。冒頭で話題に挙げたスパーズ対シティの試合でもそうだが、VARに関しては不利な判定を受けたサポーターの不満は高まるばかりだ。しかし、審判による判定において歴史的に明らかな判定ミスを見逃してきたことは否定しようのない事実である。

ルールに関しては繰り返し手直しを加え、最新技術を導入しつつ出来る限り判定におけるエラーを減らす、このような長期的な取り組みがフットボールを更なる高みに導くことを期待している。